プロローグ おまけ



 東京

 大きく張り出された紙と、握り締めた紙を見比べて、神谷はほっと息をついた。
 合格だ。
 これで四月からは、帝光学園の一年生となる。


「お兄ちゃん、どうだった?」
「実花!?おまえ、なんでここに」
「心配だったから見に来たの。合格?」
 頷くと、実花も嬉しそうに笑った。


 サッカーを続けることに親は反対だった。
 もっといい学校にいけるのにと、教師は言った。

 実花は、まるで初めからわかっていたかのように、応援した。


「お兄ちゃんはサッカー馬鹿だもん。合格すると思った」
「・・・・・。勉強したから受かったんだ」
「うそ。勉強よりサッカーしてる時間のほうが多かったくせに」




 桜の花は満開で、曇り空の暖かい日。
 妹を後ろに乗せて、神谷は自転車をこいだ。


「お兄ちゃん、早く!遅刻しちゃう!!」
「おまえ、重くなった・・・ってえ!なにすんだ!危ないだろ!!」
「そういうデリカシーのない事いうから、もてないのよ!」
「うるせえ、なにがデリカシーだ」


 自転車が、風と花びらを切って走る。
 気持ちの良い春が、訪れていた。





 静岡

 大きく張り出された紙と、握り締めた紙を見比べて、久保はほっと息をついた。
 合格だ。
 これで四月からは、掛川高校の一年生となる。


「受かったのか」
「斉木さん・・・・いい加減、しつこいですね」
「本気でこんな新設高に決めるとはな」
 いい加減絡まれるのにも飽きた。まだ何か言いたそうな斉木を無視して久保は歩き出した。


 神谷が転校してしまったのは斉木のせいだと、ほとんど八つ当たりに久保は考えていた。
 会ったときから目をつけていたのに!同じ高校に行こうと(一人で)決めていたのに!

 あとはもう、高校で優勝して神谷に戻ってきてもらうしかないと(勝手に)思っていた。


「久保、今からでも遅くはない。考え直せ」
「斉木さん・・・・・・・・・・神谷が転校しちゃったの、何でだと思います?」
「なんだ、唐突に・・・・家の都合だろ」




 満開の桜の下、久保はニッコリと笑った。
 所詮お人よしの斉木が、久保に勝てるわけがないのだ。


「そうですか。斉木さんにとっては、家の都合というだけのことなんですね」
「・・・・・ほかになにがある」
「さあ?斉木さんにとってはそれだけのことなら、それでいいと思いますよ。俺は違いますけど」
「・・・・・どういう意味だ」


 答えずに、今度こそ斉木を振り切って久保は歩き出した。
 久保にとって、気持ちの良い春と呼ぶには、一人足りなかった。







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